川上 義和

Nucleolar organizer regionsからみた気管支上皮異型過形成細胞と腺癌細胞の相違

1. はじめに 高分化腺癌細胞 と気管支上皮異型過形成細胞 とは細胞診上鑑別が困難なことがある.胸 部X 線写真で悪性腫瘍が疑われ,擦 過細胞診で肺癌 を否定できないため手術 を行 い,手 術標本で病 理組織学的に非癌 と診断される症例は,日 常の 臨床の場では稀ではない.こ れらの鑑別 を細胞 診で容易にできれば,臨 床上非常に有益であろ う. 癌細胞のような増殖の盛んな細胞では蛋白合 成が盛んになっている.一 方,核 小体は細胞の 蛋白合成の場であるリボゾームの合成にかかわ っているため1),癌 細胞では核小体活性が上昇 して い る と思 わ れ る.核 小 体 形 成 部 位(NORs) は そ の核 小 体 の 形 成 に重 要 な 働 きを担 って い る が,最 近Plotonら2)がone-step silver染 色 法 に よ るNORsの 証 明 を可 能 に した.こ の 手 法 を 利 用 し,核 小 体 活性 の 指 標 の ひ とつ と してNORsを 観 察 す る こ とに よ り鑑 別 の 難 しか っ た気 管支 上 皮 異 型 過 形 成 細 胞 と高 分 化 腺 癌 細 胞 との相 違 に つ い て 検 討 した.

著しい高lactate dehydrogenase血症を呈し,肺気腫,肺小細胞癌を合併したα1アンチトリプシン欠乏症の1例

概 要 α1アンチ トリプシ ン欠 乏症(a1ATDと 略)は 本邦 で は非 常 に希 な疾 患 で,5家 系 の報 告 が あ るにす ぎない.大 橋 ら(1978年)に よ り報 告 された髭 界 で4家 系の みのPinu11家 系 の一 家 系 を追跡調 査 中 に,肺 気 腫,肺 小 細胞 癌 を合併 し経過 中著 しい高LDH血 症 を呈 した症倒 を報 告 した.症 例 は69才,男 性.Warthin腫 瘍の既 往 が あ り,重 喫 煙者 で あつ た.入 院 時,左S6域 に 腫 蕩 を認 め諸 検査 か ら肺小 細胞癌(中 間細 胞 型)と 診 断 した.手 術 摘出,放 射 線照 射,化 学療 法 に よ り治 療 開始 したが,約15カ 月の延命 に留 まつた.手 術 時 残存肺 に気 腫性 変化 を確 認 し, 剖 検肺 か ら も混合性 肺 気腫(PE+CE)を 認 めた.血 清LDH値 は臨床 経過 に推 移 して変 動 し, 最高17820WUを 記録 した.〔 日内会誌75:1629~1637,1986〕