Sadayuki Hayashi

113 Mechanical characterization of muscle fiber bundle in a passive state subjected to uniaxial stretch

1.緒言 骨格筋が発生する力は,日常生活における姿勢保持と運動 制御に貢献するとともに,両者の複雑なバランス調整を司っ ている.たとえば,着座時や立位時の安定した姿勢は,拮抗 筋間の張力の均衡により保たれ,種々の運動は,拮抗筋間の 張力の不均衡によってもたらされる.筋は自発収縮に伴い能 動的に張力を発生する一方,他動的伸張に対して受動的に抵 抗力を発生する.骨格筋の代表的力学モデルである Hill タイ プの筋 1) では,瞬間的な筋張力をそれらの総和として表現す る.ただし,筋活動レベルが同じであっても,筋の発生張力 は一定ではなく,筋長や収縮速度に強く依存する.一方,分 子レベルの収縮機構を考慮した Huxley の滑走フィラメント 説 2, 3) では,筋長の増加に伴う発生張力の増加は,一部がア クチン–ミオシン間の結合(クロスブリッジ)数の増加を伴 う能動的な収縮要素に起因し,残りは受動的な弾性要素が非 線形バネのように振舞うためだとされる.しかしながら,そ れらが巨視的な筋の発揮張力に結び付く機序や,更に上位の 筋出力を最適化するための制御機構に関しては,まだ十分に は理解されていない.現状,身体運動のシミュレーションや 骨格筋のモデリングには,Hill タイプの筋が広く活用されて いるが,これには筋組織の微視的な構造は考慮されておらず, それが筋の巨視的な力学特性にどのような影響を及ぼすの かは不明であり,マクロレベルとミクロレベルの両者を結び つけるアプローチが必要である. そこで本研究では,その第一歩として筋の受動的力学特性 を計測する予備実験用の引張試験装置を試作し,ミクロから マクロの中間領域に相当する筋線維束の静的単軸引張試験 を行った.