西川 正史

ブランケット開発の最新動向 5.ブランケット工学の最前線

1.はじめに-ブランケットを取り巻く諸問題 本小特集は,ブランケット工学の新しい展開をレ ビューしようとするものである.これまでにもブラン ケットについては,様々な形でのレビューや報告があ り,いくつかの代表的なブランケット設計を紹介するだ けでは,おそらく貴重な紙面を割く意味あるものにはな らない.例えば,古くは84年にBlanket Comparison and Selection Study[1]があるが,今現在検討されているブ ランケット-冷却材,増殖材,増倍材,構造材の組み合 わせ-については,このころ既に提案がなされており, 新しいものが20年間ほとんど出ていないことがわかる. 基本的な機能が,遮蔽,トリチウム増殖,エネルギー取 り出しであることも昔から認識されている.しかし確か にブランケット工学は最近,これまでの数十年とは全く 異なるフェーズに入り,新たな展開をしていると多くの 専門家は感じていると思う.そのフロンティアを概観す ることに成功すれば,専門の工学系研究者にとっても, 専門外のプラズマ核融合研究者にも有益な特集になるに 違いない. ここでは,ブランケットの新しいキーワードとして 「インターフェース」を考えてみた.核融合が最終的に世 の中にエネルギーを供給する技術になるのであれば,そ れは,資源を消費し,廃棄物を排出し,エネルギーを電 力会社や消費者に供給し,社会や環境に様々な影響を与 える存在になる.核融合という現象はプラントの奥深く で起こっていても,ブランケットが,その内側の核融合 プラズマの起こす諸現象を包み込み,直接受けとめるた め,外部の現実世界との接点のほとんどは,実はブラン ケットが特徴づけることになる. そのため,エネルギーとしての核融合実用化に向けた ほとんどすべての課題はブランケットに集約されている といっても過言ではない.ブランケットは,「超」のつく プラズマの世界と現実社会とのインターフェースであ り,燃料としてのトリチウムの社会との接点,危険物と してのトリチウムや放射化物の環境との接点,核融合エ ネルギーと社会の利用するエネルギー(電力・熱)との 接点,先端科学と産業技術との接点でもある.今日の「ブ ランケットを取り巻く諸問題」は,すなわち社会が核融 合に求める問題である.過去においては,「・・型核融 合炉のブランケット」というかたちで,ブランケットは 構成機器の一つとして,それぞれプラズマ主導の装置概 念の制約の中で検討,記述されることが多かった.しか し,最近のブランケット工学では,プラズマ閉じ込めの 方式を問わない共通の技術的問題を学問的に追求する研 究が見られる.一方,社会の要求やエネルギープラント としての使命の観点から求められる機能から,新しい概 念が提案され研究される展開も見られているように思 う.ブランケット設計がプラズマへの要求にフィード バックすることもある.ブランケットの設計と工学は, 核融合エネルギーを特徴づけるインターフェース技術分 野として,横断的な,独立した学問の面を見せているも のと思われる.材料自体は昔から知られているものを 使っていても,その考え方,方法論が変わりつつあるの ではないだろうか. その意味で,ブランケットを「遮蔽,トリチウム増殖, 熱取り出し」の機能だけで見るのではなく,様々な側面 を持つインターフェース機器として,物質サイクルとエ ネルギーサイクルそれぞれについての交差点として,そ れぞれの分野の最先端の研究者から概説していただい た.学問的な広がり,閉じ込め方式への対応とともに, 小特集